聴覚障害をもつ歯科技工士のよりよい理解のために 

聴覚障害をもつ歯科技工士のよりよい理解のために

3.職場での接し方について

《作業音》
・聞こえの様子の項でも書きましたが、歯科技工科の生徒の多くは補聴器をつけないと、技工作業音はほとんど聞こえません。補聴器を装用することで、音や音源の存在に気付くよう努めていますが、それには限界があるので、周囲の方からの気づいた一声があると助かります。また、補聴器は聞きたい音だけを大きくするのではなく、周囲の雑音までも大きくしてしまうので、話し言葉が聞き取りにくかったり、音の大きさに耐えられずに補聴器をはずしてしまうこともあります。

《話し方》
・補聴器をつけても、耳に入ってくる音をことばとして聞き取ることはできません。補聴器を通して聞いた音の他に、視覚を通じて入ってくる口の形や顔の表情、会話の前後の流れなどから総合して判断・理解しますので、普通に聞こえると思って早口で話したりしないで、ゆっくりはっきりと話すなど話し方の工夫が必要です。

①正面を向いて
話し方 ②はっきりとした口形で
③意味のまとまりごとに区切って自然なリズムで話す

良い例)
「あなたは」「カービングが」「得意ですか」

悪い例)
「あ」「な」「た」「は」「カー」「ビ」「ン」「グ」「が」「と」「く」「い」「で」「す」「か」

・声をかけても振り向かない時には、側に行って肩をたたいて知らせてから話しかけてください。

・暗い場所や光を背(逆光)にして話すと、話し手の口の形がよく見えないので立つ位置に注意をして下さい。

・補聴器は騒音の少ない所で、一人の相手と、近づいて話す時に効果を発揮します。逆に、騒音の中や人ごみの中での会話や、離れた人の声を聞くのには雑音が多くて聞こえにくいのです。

・聴覚障害者にとって、初めて接する健聴者の口の形を読み取るのは大変難しいのですが、慣れてくれば分かる言葉も多くなります。同じ言葉を2,3回繰り返しても伝わらないときは、言葉や表現を変えてみるのもよい方法です。また、二重否定などの複雑な表現は避けた方がよいでしょう。


《確認の仕方に工夫を》
・「わかった?」と聞かれるとつい頷いてしまうことが多いようです。
理解できるまで何度でも聞きたいと思う反面、なかなか伝わってこないと聞き返すのを遠慮してしまうこともあるようです。場合によっては、復唱や筆談で内容を確認することが望ましいでしょう。


筆談 《筆談》
・話しかけて分からない時や作業上の大切なことは、紙に書くと、意味を取り違えて間違ったりすることを未然に防ぐことができます。文の言い回しや書き方は、短くて分かりやすい表現で記述すると理解しやすいです。


《職場のミーティング》
・職場のミーティングでは、参加をしても話しの流れに乗ることができず、寂しく不安な気持ちでいることも多いようです。職場内に一人でも指文字や簡単な手話を使って話しをする人がいると、肩の力を抜いて話し合いに参加できます。指文字や簡単な手話を覚えていただくとありがたいです。お気持ちのある方は本人に声をかけてみてください。


《休憩時間や業務後の飲み会などでのコミュニケーション》
・前述の通り、聴覚障害は、聞こえない、あるいは聞き取りにくいということだけでなく、情報の受け入れ口が狭まっています。コミュニケーションの困難さや情報不足の不安などから、周りの方との交流に強い緊張感を抱いたり、相手の話がうまく伝わってこない、あるいは相手の話を間違って理解するなどの失敗を恐れてなかなかうまく心を開けなくなったりする人もいます。心の壁を取り除くためには、周囲の方々からの積極的な働きかけが大切です。仕事の上でのコミュニケーションの大切さはもちろんのことですが、休憩時間など仕事以外の場面でのコミュニケーションを大切にしていただけることを願っています。

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